倒れ付すとも。

自分が満足して死ねればそれでいいのです。

人間になりたい

人間になりたいとずっと願っている。

 

メンズエステをやめた。花束を貰った。もう他人に性器をまさぐられなくていいのかと思うと、もう何もかも我慢しなくてもいいのかと思うと、家に残る鎮痛剤が頭痛と腹痛に対処するためだけに使われるのだと思うと嬉しくなって帰り道が弾んだ。

 

毎日学校に通っていて、その後みんなは恋人や友達と遊んだり優しい実習先の人に褒められたりしている中でひたすら耐え抜く日々からひとまずはおさらばだ。実習は終わった。メンズエステはもう行かない。オープンキャンパスの手伝いも、多分もうしない。そうか、私休んでいいんだ、仕事以外のことで楽しそうにしても誰も怒らないんだ。みんなと同じだ。

 

ようやく同じになれたと思った。でもこの時期だから、みんなそれぞれの道を歩き出した。

将来を約束した彼氏についての相談、就職先についての相談。今までみんなのいろんなお願いや無茶振りをじっと聞いて貧乏くじを引いて笑顔で全部許してきた。だから私も新居のことや就職先のことを聞いてみて、ちょっと頼ってみた。返ってくるのは当たり前に周りの大人や両親や異性を信頼している人間の言葉。それでなんとかなるならもうとっくに、なんて言わない。愛想笑いでそうだねって返して、気づいたらずーっとみんなの彼氏の話ばっかり。誰も悪意なんてない。汚いのは私だけ。突然寝坊で休んだあの子は授業資料を取っておいてテスト範囲のメモまでもらえるけど、ストレス性の熱や職業病の腹痛に苦しんで休んだ私は1人で取り返さなきゃサボった扱い。善意に対価を求めて勝手に失望してるのも私だけ。

 

そうだよなぁ。

 

高々風俗辞めたとこで同じ普通の女の子にはなれなくて、親や周りの大人を信頼して尊敬して育つことのできた普通の女の子にある愛らしさは絶対手に入らなくて、素直に助けてもおねがいも言えない醜い生き物が人間のみんなみたいにちょっと困った顔をするだけで誰かに助けてもらえるわけがなくて。

独りで生きていくしかないならば、独りで生きていくのみだなぁと思った。どんなに人とワイワイ喋れても、自分だけ汚くて、浮いて見えた。

 

自分が救われるのは自分の家だけで、汚くてもここに私以外だれも息をしていない、だれも私を見て眉をひそめないし守るべき空気もないと思うと大きく息が吸える。自分で契約して自分で家賃を払っている家。

でもここももうすく私は捨てないといけない。

新しい仕事の為の新居は、未成年者の契約ができなかった。

つまり、父か母の所有物に私は勝手に住んでいることになる。最低でも2年間。

あんまりだと思った。高々2ヶ月早く生まれたせいで、私は法や契約や決まり事からほいと見捨てられる。責任能力のない人間足らないものだと思い知らされた。これがどれほど絶望的なことか分からない人間でありたかったし、親が契約者になる部屋に住むことに拒絶を覚えないほど親を愛していたかった。

仮に母が契約者の場合、既に私が契約する前提でいた時から彼女は父との生活が嫌になったら私の家に逃げる、と言っていた。だから追い出さないでねと。無理だ。私は母を血の繋がった肉親として愛してはいるが、もう人間として、社会人として、人の親としては心底拒絶しているし関わりたくないと思う。あの人の同情されて当たり前、寄り添って貰えないのは酷い、私を上機嫌にするためにこの場の空気を保っていいこにしていろという圧力が1番嫌で私は実家から逃げ出したのに、本人に入り込んでこられたらどうしようも無い。母が契約者なら、入り込んでくるという訳でもなく所有権を正当に主張されるだけで簡単に母の支配する空間が作れる。私の安全地帯は最初から確定しない。逃げるには妹もやっとの思いで掴んだ正規雇用も築いた人間関係も信用も手放して夜逃げするしかなくて、また正規雇用を得るまでに若いうちはきっと水商売を戻らざるを得なくなるのだと思うと息苦しくなる。

 

父が契約者でも、長い説教と正当な所有権の主張、そして追い出す条件の脅しをかけられるだろう。どんな条件も私ははいと頷くしかないことを身をもって知っているし、その空気はレイプされる時に酷く似ている。父の反論を許さず自分だけ気持ちよくなっていればそれでいいという家庭内での姿勢は、虐げる対象を見つけて増長した弱い人間の醜さを感じて嫌いだ。父のことも肉親として愛してはいるが、社会人としては大嫌いだ。同僚にも部下にももちろん上司にもいて欲しくない。異性としても尊敬できない。父親としても尊敬できない。ただただ軽薄で気持ちが悪い。

 

 

だけど私は4月までは未成年者で、今月の中旬まで2週間職もなくて、契約上は責任能力のある人間とは認めて貰えない卑しい弱い身であるから意思がどうあったところで黙るしかなくて。

今後2年は黙り続けないといけないのかと思うと酷く息苦しくなる。頑張って保った家庭内の空気を被害者顔でぶち壊す家族3人それぞれの顔が浮かんで憎くなる自分が人ならざるもののようで生きづらい。ともにもかくにも人生は諸行無常、私が半年以上に渡り契約者となり家賃や光熱費の支払いが滞ったことの無い事実も、内定通知書も死ぬ気で取った資格も、年齢と職のない現実の前には塵芥だ。圧倒的権力である両親にいくらそれを説いて自分のちいさな安全基地を守ろうとしても、契約者が両親なら正当に清く正しく正論でぐちゃぐちゃに荒らされる。

 

疲れた。本当に疲れた。にんげんになろうと必死にもがいてもがいて血を流して、それでも全然届かなくて、苦しくて、自分はどう足掻いてもどこまでも卑しく間違っていて気が狂いそうになる。明日目が覚めなければいいと思う。軽率で無責任な両親のセックスで産まれた命が続いている限り、溺れても体は息をしようとしてもがくし切りつけたら血が出るし、心は楽になりたくなるからもうどうしようも無い。意思なんてなければ良かった。自我なんてなければ良かった。でもここまで私の醜さの原因を擦り付けあってトドメも刺さず殺さなかったお前たちの責任だからな、指くわえてみてろ、と両親や周りを逆恨みして、傷だらけの化け物は諦めてこっそり泣くしかなかった。